大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)265号 判決

控訴人

奥野ミツ

右訴訟代理人弁護士

関伸治

岸田功

被控訴人

足立美子

被控訴人

奥野保夫

被控訴人

奥野祐三

右三名訴訟代理人弁護士

藤井俊治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が原判決別紙物件目録記載の不動産(以下「本件土地」と言う。)につき所有権を有することを確認する(当審において変更)。

二  被控訴人

主文と同旨。

第二  当事者の主張

次のとおり訂正・付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表五行目の「作成されているが、」の次に「被控訴人においては、明治二九年八月六日奥野太良四郎から奥野徳太郎への本件土地売渡しに伴い同日付をもって所有権移転登記がなされ、それが旧登記簿から現登記簿に転記する際に登記官の過誤によって脱落していることが分からなかったため、右和解に応じたものである。ところが、その後右奥野太良四郎から奥野徳太郎への所有権移転登記の登記済書が偶然の機会から控訴人の倉の中で発見され、それに基づき昭和六二年二月一〇日右脱落していた所有権移転登記が登記簿に記載されるに至った。したがって、」を加え、同六行目の「民訴法四二〇条」を「民訴法四二〇条一項八号」に、同八行目の「場合であから、」を「場合であるから、」に各改める。

二  同二枚目裏三行目の「証人奥野紀代子」の次に「(期日指定申立後のもの)」を加える。

理由

一当裁判所の判断は、次のとおり訂正するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏末行目の「和解期日」から同三枚目表一行目の「その後右和解期日」までを「二回の和解期日を経て同年一〇月三〇日午前一〇時に指定された和解期日」に改める。

2  同三枚目表六行目の「前掲証拠」の次に「(甲第一四号証中官署作成名義部分はその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められ、その余の甲号各証は成立につき当事者間に争いがない。)」を加え、同一一行目の「先々代」を「先々々代」に、同一二行目の「先代」を「先々代」に各改める。

3  同三枚目裏二行目の「これより」を「これにより」に、同九行目から同五枚目表一行目までを次のとおりに各改める。

「三 以上の各事実によると、本件所有権移転登記手続請求訴訟(以下「本件訴訟」と言う。)において、控訴人は、訴訟物として、本件土地についての売買契約又は所有権(取得時効完成を理由とする)に基づく所有権移転登記請求権を主張し、被控訴人らは控訴人が右権利を有することを争い、本件和解期日においてこの権利について和解がなされていることが明らかである。そして、控訴人主張の奥野太良四郎から奥野徳太郎に対し明治二九年八月六日売買を原因とする所有権移転登記が経由されたがその後登記官の過誤により現登記簿上この登記が脱落しているとの事実は本件訴訟・和解を通じ当事者双方が主張として全く採り上げていなかったところのものである。

しかしながら、不動産所有権が一方当事者側から他方当事者側に移転したとしてそれに対応する移転登記手続を求める訴訟は、ほとんどは不動産所有権の帰属に関する紛争について解決を図るための手段であって、その実質は当該登記によって公示される不動産所有権の帰属そのものであることが多い。本件訴訟においても、前認定の諸事実に照らせば、実質的には、控訴人が本件土地について所有権及びこれに随伴するものとしての所有権移転登記請求権を有するか否かが争いとなり、この争いとなった事項について和解条項が作成されていることが明らかである。したがって、本件土地の所有権及びこれに伴なう所有権移転登記請求権の帰属いかんこそが本件和解によってやめることを約した争いの目的となった事項であると言わなければならない。控訴人の主張するところは、要するに、本件土地が控訴人の所有に属していたことの確証があらわれ、登記簿に所有権移転登記が脱落していることが判明したというに帰するところ、訴訟上の和解は民法六九六条の適用を受ける結果、後日和解をした事項について真実に反するとの確証が出たときでも、その効力が左右されるものではないのである。控訴人主張の錯誤は、ひっきよう、本件土地の所有権及び所有権移転登記請求権の有無そのものに関し、本件和解によって争いをやめることを約した事項自体について存する錯誤にほかならないと言うべきである。

そうすると、本件和解成立後に控訴人主張の錯誤が判明したとて、それを理由に本件和解の無効を主張することは許されず、控訴人の錯誤に関する主張はその余の判断に及ぶまでもなく失当である。

四  また、本件和解が当事者双方の争点をなしていた本件土地所有権の帰属及び所有権移転登記請求権の有無に関する主張を互いに譲歩した結果であって、行政処分の成立・効力を前提として成立したものでないことは前記のとおりであるから、控訴人主張の再審事由についての主張は、その余の判断に及ぶまでもなく失当である。」

二よって、本件訴訟が本件和解によって終了したとの原判決の判断は結局相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今中道信 裁判官仲江利政 裁判官上野利隆)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例